<研究室便り>
アメリカのニュース週刊誌であるTIMEが、2004年から毎年、今の時期に「The 100 Most Influential People」という特集を合併号で組んでいます。日本ではたまたま5月の連休と重なりますので、休日の読み物として楽しみにしています。
日本では、「日本人は誰々が取り上げられた」という形で小さなニュースになりますが、ここに登場するのは「良くも悪くも影響力のある人物(グループ)」ですので、取り上げられることが名誉かどうかは分かりません。昨年はISISの指導者も出ていました(年末の「Person of the Year」と同じコンセプトです)。
Pioneers・Artists・Leaders・Titans・Iconsの5分野(?)からなっていますが、私にとっては半分くらいは知らない人物です。世界にはいろいろな人がいることを、改めて実感します。
この特集では「誰が取り上げられるか」に関心が集まるのは当然でしょう。ただ本当に面白いのは、「誰が書くか」だと思っています。つまり「誰が誰のことを書いているか」という組み合わせが興味深いのです。例えば以下のようなものです。
(A:B Aという人についてBが書いている)
Guus Velders : Leonardo Dicaprio
Jared Kushner : Henry Kissinger
Melinda Gates : Sheryl Sandberg
Donald Trump : Paul Ryan
Kim Jon Un : Christopher Hill
Jean Liu : Tim Cook
Neymar : David Beckham
説明は省きますので、関心があれば調べてみてください。必ずしも「お友だち」が書いているのではなく、例えばトルコ大統領(Recep Tayyip Erdogan)のことを書いているのは、大統領に投獄されたこともある新聞社の編集長です。
話は変わりますが、毎年この特集を読んでいて、繰り返し出てくる単語があることに気づきました。それはinspire(inspiration・inspiring・inspired)という言葉です。「インスピレーション」というと「ひらめき」という語感で、高校時代に習った”Genius is one percent inspiration, ninety-nine percent perspiration” というエジソンの言葉を思い出します。
今回の特集でも次のような表現が使われています。
・The Women’s March was the most inspiring and transformational moment I’ve ever witnessed in politics.
・He makes music from an unapologetically inspiring and Christian perspective …
・Ava’s point of view is fresh, it’s inspiring.
また今回はなかったようですが、”She/He is my inspiration”という表現もあって、inspirationという単語はこのように使うのかと印象に残りました。
inspireというのは in +spire で、spireの元はラテン語の「息」という言葉(spiritと同じ語源)ですから「息を吹き込むこと」です。「息」は「精神」「魂」の象徴で、「精神を入れる」から「鼓舞する(こと・人)」「励ます(こと・人)」という意味になります。(反対はexpireで、「終わる」「期限が切れる」「亡くなる」ということです。余談ですが、私がexpireという単語を覚えたのは、学生時代に送られてきたTIME誌の請求書に”Your subscription will expire by ~”[講読期限が〇〇で切れます]と書かれていたことがきっかけでした。今以上にお金がなくて、1万円を超える年間購読料がなかなか払えず、請求書が何度も送られてきたので覚えてしまいました。)
ところで教育界で有名な言葉に以下のようなものがあります。
凡庸な教師は、ただ話す。
良い教師は、説明する。
優れた教師は、態度で示す。
そして、偉大な教師は心に火をつける。
William Arthur Ward(1921-1994)という人の言葉だそうです(出典を確かめてはいません)。原文は以下のようなものとされています。
The mediocre teacher tells.
The good teacher explains.
The superior teacher demonstrates.
The great teacher inspires.
「心に火をつける」がinspireです。
inspireは授業に限ったことではないのでしょうか、一度でいいので、学生の皆さんを “inspire” する授業をしたいものだと思っています。
それ以上に、教師となった卒業生、そして教師を目指す学生さんに、生徒から”You are my inspiration” と言われるような存在になって欲しいと願っています。
(TO)