<日文便り>
つめたい空気の中にも、何となく春を感じるようになってきました。
ふと足下を見ると、構内にこんな花が咲いていました。
ローズマリーの花です。
代表的なハーブですが、こんな可憐な花が咲くのを、皆さんご存じでしたか?
ローズマリーの語源はロスマリヌス、「海の雫」という美しいものなのだそうです。
おそらくこの花の容子から名付けられたのではないでしょうか。
日本語では「まんねんろう」と言い、「迷迭香」という字を書きます。
漢字から考えると、あたかも香りで人をまどわせるかのようですが、すっきりさわやかな匂いには消臭効果があり、肉料理にもよく使われています。
ローズマリーは詩や音楽にも親しいハーブです。
1960年代に活躍したアメリカのフォークデュオ、サイモン&ガーファンクルの代表曲「スカボローフェア」には、市場に売られているハーブなのでしょう、パセリやセージ、タイムといっしょにこのローズマリーが出てきます。
また、19世紀末から20世紀にかけて活躍したオーストリアの音楽家フリッツ・クライスラーには「美しきロスマリン」という、これまた有名なヴァイオリンとピアノのための小品があります。
このロスマリンとはローズマリーのドイツ語名です。
ロスマリン、つまりローズマリーは女性の名前にもなっているわけですが、『第九軍団のワシ』などの歴史児童文学で知られるイギリスの作家サトクリフのファーストネームが、このローズマリーです。
サトクリフといえば私が思い出すのは『ケルトの白馬』という邦題で訳された1作です。
イギリスにあるヒルフィギュア「アフィントンの白馬」を元に紡ぎ出された物語ですが、読み終わって思ったのは「ひとはパンのみにて生くるものに非ず」ということでした。
香り高い常緑の葉むらの中に見える、小さい淡むらさきのローズマリーの花は、控えめで奥ゆかしくありながら、今時分の冷たい空気の中にも凛と咲く強さをもっています。
咲く花は見るものを喜ばせ、その葉や香りは人々にとって「実利」をもたらすものですが、その花のうつくしさを愛でること、そこからさまざまなことをかんがえることは「文化」の領域です。
これからは日増しに温かくなり、寒さに凝った気持ちも花開いて行くでしょう。
ちなみに、昭和女子大学は構内に多数の庭木や草花があり、かつては新入生の必修科目課題に、構内の「花地図」を描くというものがあったほどです。
(FK)