古典の世界を広げよう

〈日文便り〉

8月17日と18日、オープンキャンパスが開催されています。受験生の皆さんは酷暑の中、いよいよ受験が近づいてきましたね。

以下に大学の学びの一端をご紹介します。

日本最古の古典である古事記はその序文により、天武天皇の撰録の企画がなされましたが、「帝紀」「旧辞」の「虚偽定実」の作業が中断し、元明天皇の和銅五年(712)に成立したとされます。古事記の最も古い写本は、南北朝時代に書写された真福寺本ですが、中巻と下巻の奥書をみると、その祖本は鎌倉時代まで遡ることができます。大きく分けて、古事記には伊勢系諸本と卜部系諸本の二つの系統があります。真福寺本は伊勢系諸本です。

最古の古典とされる古事記は、その書写過程も複雑で、私たちが現在みている古事記は、平安朝に遡れる写本がありません。本文校訂を経てどの漢字を用いるとよいのか、意味が通るのか、諸本の校合が大切です。3、4年生は必要に応じて 写本確認の作業に取り組んで います。たとえば景行天皇条では、真福寺本では、景行天皇は容姿が美しい兄比売・弟比売を妻にしようとしたのに、子の大碓命が横取りして景行天皇に替え玉を差し出す話があります。天皇はそれを見破り、真福寺本では、「天皇、知他女、恒令経長」とあります。卜部系の兼永筆本古事記では、「天皇、知他女、恒令経長」とあり、傍線部の文字が異なります。この本文をどのように読むか、本居宣長以来検討されてきましたが、未だ決着がついていません。ゼミの学生さんに写本の文字の違いを示すと、興味をもって授業に臨んでくれます。「服」と「肥」の漢字の意味を調べ、文字の世界を広げて行きます。

注釈書を読み比べることによって理解されることもありますが、実際に本文を確認する作業を経て、見えてくるものがあり、わかることがあります。手間を惜しまないで原典にあたってみるのが、古典研究において重要です。

果てしない時を経て書写され、現在に伝えられた写本は日本人の文化の遺産です。受験生の皆さんも大学で学ぶことによって、今後新たな発見があり、研究によって解決が出来る問題があるとよいと思います。今まで知らなかったことを知る、それが学ぶことの楽しさです。一緒にわからないことを考えて行きましょう。身体に気をつけて勉強を頑張ってください。

(KR)