歴史文化学科の渡辺伸夫です。

皆さん、お元気ですか。今回がおそらくブログ最後の登場かと。と言うのも来年3月で定年退職を迎えるからです。あと残すところ4ヵ月と○△日。定年後のワクワク感が何んとなくあるものの、現在は日々の生活に追われて少し疲れ気味です。
このところ明かるい話題がトンとありませんね。先月は血液検査で立派な糖尿病と診断されたばかりですし。今回は夏休みも終わりに近い9月29日の出来事を書いてみます。
この日、私は久しぶりに母校の早稲田を訪ねました。構内は後期が始まって学生たちで活気づいています。ところが早稲田界隈は静寂そのものです。大隈通りの商店街に西早稲田郵便局があり、その斜め前に一軒の食堂があります。毎週金曜日の早稲田出講の日には、決まって昼食に刺身定食と冷奴を食べるのが私の定番です。カウンターの席に腰を下すと、黙っていてもそれが目の前に並びます。それに毎回違う手作りのお新香がついて、このサービスが楽しみにもなっています。ともに八十歳を越した老夫婦が営む店です。
その日、私が立寄ってみると、いつもの縄暖簾がかかっていません。ひょいと中をのぞくと電灯もつけずにポツンと暗い中にお二人が腰をかけています。
アラ、まだ夏休みでしたか。
アッ、センセイ。実は八月で店を閉めたんです。去年の夏と今年の夏の暑さに参りました。もう限界です。
気力が続かなくなりました。二十年もやってきたんですが。もう買出しに新宿へも行けなくなりました。息子
がいますけど、家を出ていますし。配達してくれるのは今ではお米だけです。センセイが来年3月でお辞め
になるというので、それまではがんばるつもりでいたのですが、申し訳ないけど店を閉じました。授業が始
まって店が閉まっていたら、センセイががっかりするだろうから、センセイに連絡しなくちゃぁと、今も話して
いたんです。
私は長年通っても、名前を名のっていませんでした。「静(しずか)」という店の名を知っているだけで、ご夫婦の名字も店の電話番号も知りませんでした。行けばいつも店が開いていて、常連の客として長い間通っていたのです。
仕方ありませんね。いつかは終わりが来るのですものね。私らも寂しいです。センセイ、また寄って下さい。
私らはいつもここにいますから。
私は壁にかかったお品書きを見渡しながら、いつも同じ物ばかり食べていたけれど、こんなに沢山のメニューがあったのだと、今さらながら自分の刺身好きを思い知ったのでした。こうして一つのお店の最後を見届けたのですが、店じまいと自分の定年が重なって、「いつかは終わりが来る」という言葉が妙に心に沁みました。お暇して店を出ると、残暑の強い陽射しに目がくらみ、思わず手のひらを目に当てました。あぁ、いつか終りが・・・・・・・・・。

ここで話題をかえてお知らせを一つ。昭和女子大学文化史学会第27回大会のご案内です。来る11月26日(土)午後1時30分から。80年館6階オーロラホールにて。私は今回、講演を仰せつかりました。演題は「宿借りの話」。宿借りって何?というお話です。このブログも最後、講演も最後。いわば最終講義の代わりといったところでしょうか。なお、本大会は本学科学生優先のため、当日満席が予想されます。(但し、講演時のみ)当日参加を伝えてきた卒業生は、今のところ民研(民俗学研究会)のOGばかり。義理と人情の民研です。

最後に一言。これは遺言ではありません。私は大学教員には次の三つのタイプがあると思っています。
(1) 定年前からボケて老害となる人。
(2) 定年後に、することがなくなってポックリ逝く人。
(3) 定年後に元気が出て生き生きと生きる人。
私は、はたしてどのタイプ?9月の学芸員研修旅行で奈良と京都を巡った時のこと。所は石清水八幡宮。歴文のある3年生が、私を評してこう言ったそうです。渡辺先生は老人の皮を被った野性の人であると。これは文句なしに本年度最高の殺し文句大賞ではないでしょうか。これが私への餞の言葉だとしたら、本当に嬉しい。ルンルン気分で、南アルプス天然水1年分をプレゼントしたいほどです。
今回は最後ということで長文になりました。お許しを。いよいよあと数ヵ月。悔いを残さぬように過します。
それでは、皆さん、ごきげんよう。