西洋史ゼミ・『ヒトラーの忘れもの』試写会&ディスカッション

 

320

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日(12月9日)、西洋史ゼミの3&4年生と、私の授業を複数とっている2年生、あわせて17人が集まり、今月17日に全国公開される映画『ヒトラーの忘れもの』の試写会とディスカッションを行いました!(映画の公式サイトはこちら

いや~、この企画は本当に楽しかった!!!
うちの学生はこんなに素晴らしかったのか!と今更気づかされるような、私にとっても貴重な機会となりました。
配給会社の方々も、「作品をすでに何回も見ている自分たちも気づかなかったようなことまで指摘してもらえて、本当に感動した」とおっしゃっていましたが、学生のみなさんの繊細な感性、細部の表現への鋭い着眼、登場人物への深い感情移入、よく考えられた洞察など、私もいたるところで感心させられました。
明けて一晩経ってもまだ興奮が冷めやらない状態ですが、映画のネタバレにならない範囲で、当日の様子をお伝えしたいと思います!

DSC05840

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもこの企画は、「女子学生の感性に直接触れてみたい」ということで、配給会社キノフィルムズの方にオファーをいただいて実現しました。
私としても、物事を深く考える入り口として、メディアに対する批判的なまなざしを訓練する手段として、そして(とくに教職を取っている学生には)歴史を社会に広く伝えていくためのツールとして、歴史に関する映画を題材として扱うことには、以前から強い関心がありました。

ですので、一も二もなくオファーをお受けしたのですが、一つだけ不安な点もありました。
素直、真摯、真面目にテーマに取り組むことにかけては、歴文の学生は本当に素晴らしいのですが、映画を見終わった直後に発言するという「瞬発力」に関してはかねがね心配していることもあり(そのため歴文では、さまざまな機会をとらえてKJ法やディベートといったグループワークに取り組んでいるのですが)、活発な意見が出るのかなと、試写会の前は心配していました。

しかしそれは、まったくの杞憂だったのです!
こちらも感心させられるような意見が、次から次へと出ること出ること!

DSC05860

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレにならない範囲で主な感想をご紹介しますと、

・ドイツ人への憎しみという怒りの矛先を、どこに向けるべきなのかということを考えさせられた。誰が責任を取るべきなのか。

・憎しみという感情は、戦争が終わったとしてもそう簡単には取り除けないということを実感した。

相手をドイツ人としてみるか、一人の人間として見るかということが問われていると思った。

直にふれあうことで、人の感情は動くのだと思う

・人間というのは直接関わらないと、本当のところは結局分からない。人間の想像力とは非常に乏しいものなのだと思った

・人々がドイツ人を憎んでいたのは当然のことだと思うが、目の前のドイツ人とふれあって「かわいそう」という気持ちを持つことも当然のことであって、感情には正解がないというふうに感じた

人を憎み続けることも難しいが、信頼し続けることもまた難しいのだと思った

戦争を直に経験しなかったがゆえに憎しみを全く知らない世代というものに、希望があるのかもしれないと思った

といった感想が、ありました。

DSC05834

 

 

 

 

 

 

 

 

また、少年兵たちが昆虫やネズミたちまでペットとして飼ったり名前をつけていたりしているシーンに注目を寄せた学生もいました。「人間は、愛を与える存在が必要なのだと思った」という鋭い感想も。

また、主人公の軍曹が一人でいるときとみんなでいるときの様子の違いに着目し、その孤独さや葛藤に着目した学生もいれば、登場人物の双子を自分と弟の関係に重ね合わせ、その心情を鋭く読み解いた学生もいました。

 

DSC05905

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような鋭い意見が出てくるものですから、私も楽しくて楽しくてしょうがなかったんですが、中にはさらに、映画の中での青空と雲が持つ意味、砂がストーリー展開において与える効果、虫に対する少年兵たちの態度といったものを丁寧に読み解く学生もおり、本当に驚かされました。

そして最後には、ドイツ人を被害者として描くということの意味についても、様々な意見が出されました。
ナチス・ドイツというと、加害の側面ばかりが知られているけれど、ホロコーストにおいて対独協力した国々が少なくなかったことが分かっている現在、こうした側面についても人々が知る必要がある、そのためには映画はとてもよい手段である、デンマークにもこうした薄暗い過去があることを知って衝撃だった、などなど。

DSC05847

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この貴重な機会を通じて、私も改めて学生の皆さんから教えてもらったことがあります。
それは、社会の様々なことについて数多くの知識を持つことは大事だし、必要だけれども、しかし目の前の対象に対しては、そういう前提知識はいったんおしゃかにして、まっさらな気持ちで向かい合う必要がある、ということです。
知識は時として、対象そのものと向かい合うことを邪魔することがあります。
手持ちの知識の枠組みの中に対象をはめ込んでしまい、対象それ自体をきちんと理解できなくなることがあるのです。
しかし今回、学生の皆さんはまずは映画にまっすぐに向かい合い、そこから何を学べるのかを一生懸命考えてくれました。
そうすることで、映画を何度も観た配給会社の方ですら気づかなかったような視点や論点を得ることができたわけです。

このような機会を与えていただいたキノフィルムズには、改めて深く感謝申し上げます。