だいぶ時間が経ってしまいましたが,心理学科助教・岩山 孝幸が日本認知・行動療法学会(JABCT)の第47回大会(会期:10/10-11)でケース発表を行いました。大会は新型コロナウイルス感染症対策のためオンラインにて行われました。
日本認知・行動療法学会(JABCT)について
日本認知・行動療法学会(JABCT)は認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)に関する研究や教育を推進し,認知行動療法(CBT)の普及をはかることを目的として活動している学術団体です。
このような学術団体では年次大会(学術集会)が開かれ,全国から研究者や現場の心理職たちが集い,研究発表や最新の治療技法などを学ぶワークショップへの参加を通じ,より良い支援を行っていくための活動も行っています。
↓今回の大会でもさまざまなプログラムが開催されました。
認知行動療法(CBT)とは
認知行動療法(CBT)という言葉を耳にしたことがある方もいるかもしませんが,さまざまな心理的問題や精神障害に対して効果が実証されている心理療法(カウンセリング)の1つです。
心理療法(カウンセリング)にはたくさんの理論や立場がありますが,認知行動療法(CBT)は治療者の個人的な経験や勘のみを頼りとするのではなく,科学的な方法で治療効果を検証しようとするエビデンスベースト・アプローチに基づいています。
心理職初の国家資格「公認心理師」が誕生しましたが,公認心理師法の目的(第1条)である「国民の心の健康の保持増進に寄与する」ためには自らの支援活動の根拠を積極的に示していくことが求められます。そのため,効果が実証されている認知行動療法(CBT)が最近注目を集めています。
認知行動療法(CBT)については,以下の日本認知・行動療法学会のページも参考になります。
▶日本認知・行動療法学会ホームページ|認知行動療法とは
ケース発表の意義
実証的な治療法である認知行動療法(CBT)はもとより,心理療法(カウンセリング)の対象となる存在はそれぞれ異なる背景を持った人や集団です。
したがって,「絶対上手くいく方法」がはじめから決まっているわけではなく,目の前のケースにどうやったら理論や技法を役立てられるのか考えながら実践していく必要があります。
人間が一人ひとり異なるように,ケースもその一つひとつが異なっています。ただし,担当しているケースと似ているケース発表を聞くことで,自分の支援に活かせるヒントを学ぶことができる場合もあります。
このようにケース発表を行うことは,心理職同士が学び合い,自らの支援活動の振り返りや点検を行うことで,最終的に現場で支援を求めている人々へのより良い支援が可能となるため大変重要なものとなっています。
ケース発表における倫理:発表の意義と守秘義務の両立
「カウンセリングで話したことが発表されるの?」と不安に思った人がいるかもしません。
公認心理師法にも,
「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」(第41条)
と守秘義務について定めがあるように,例えば心理療法(カウンセリング)で話されたことは,原則的に他言してはならないこととなっています。秘密が守られているとクライエント(相談者)が感じられることで,安心して心理療法(カウンセリング)を受けることが可能になるためです。
しかし,前述の通り,自らの支援活動の根拠を示していくためにはその成果を公表したり,改善を行っていく必要もあります。そのために,心理職が所属する各種団体ではケース発表に関するガイドライン等が作られています。
具体的には,個人が特定されるような情報を改変して伏せる(名前や地名など),参加者は守秘義務の規程がある専門職に限る,などです。また,特に重要なこととして,対象者に発表目的や発表方法,秘密保持のための具体的な対策などを説明し同意を得る手続き(インフォームド・コンセント)が挙げられます。
今回はオンラインによるケース発表であったため,学会の委員会でより厳重な方針が示され,今回の発表もこの方針に従い,ケース発表に際してクライエント(相談者)の方に十分な説明を行い同意を得た上で行いました。
▶日本認知・行動療法学会ホームページ|JABCT遠隔によるケーススタディの取り扱いの方針
同意してくださったクライエントの方にこの場をお借りして感謝申し上げます。
ケース発表を終えて
発表では,認知行動療法(CBT)を実施する中で得られた情報に基づいて,クライエントの方が抱える困りごとが「なぜ生じ,今も続いているのか」に関する仮説を立てるケース・フォーミュレーションという手続きを提示し,見落としがないかどうか議論をしました。
そして,ケース・フォーミュレーションに基づき行った問題解決のための方法(介入)が妥当であったかどうかについても議論を行いました。
認知行動療法(CBT)は「考え方」を変容させる面ばかりがクローズアップされがちですが,ケース発表ではケース・フォーミュレーションに基づき,考え方よりも行動へのアプローチを行った介入の妥当性を議論しました。
当日は約180名もの方にオンラインでご参加いただき,コメンテーターの先生からのご指導もいただきながら,その介入の妥当性を振り返ることができました。この経験を現場に還元しようと心がけながら今も実践しています。
これからも教員自らが研究発表を行うことで,支援活動をより良くしていくために必要な倫理的態度や研究マインドを学生に伝えていきたいと思っています。
(心理学科助教・岩山 孝幸)