日本心理学会第88回大会@熊本:参加報告

2024年9月6日(金)―8日(日)に熊本城ホールで開催された日本心理学会第88回大会において,心理学科教員が研究発表を行いました😊

全国から心理学研究者が集うイベントです✨️
昨年度の参加風景

日本心理学会の第87回大会が2023年9月15日(金)―17日(日)の日程で,神戸国際会議場・神戸国際展示場で開催されました。 [caption id="attachment_7910" align="aligncenter" wid[…]

昨年度の研究発表

日本心理学会の第88回大会が2024年9月6日(金)―8日(日)の日程で,熊本城ホールで開催されます。 昨年度は神戸で開催され,心理学科教員が研究発表を行いました。 以下の記事で日本心理学会や学術大会について解説していますので是[…]

今回,発表を行った先生方の発表概要をご紹介します💁‍♀️

DSTプログラム参加によるセルフ・アドボカシーへの気づき

本多 ハワード 素子先生は,本学大学院心理学専攻・楠本沙織さんの修士論文研究を共同で発表しました。

楠本さんはオンラインで参加しました💻️

DSTとはDigital Storytelling(デジタル・ストーリーテリング)の略で,アメリカから広まった社会教育プログラムの1つです。写真や絵に,自分の声でナレーションをつけて,短い動画として自分の思いや考えを表現します。

このプログラムの目的は,自分自身をより深く理解することや,他者に対して自分の経験や考えを発信することで,エンパワメント※1を促進することにあります。また,マイノリティや社会的に不利な立場にある人々が,セルフ・アドボカシー(自己権利擁護)※2を実現するための手段として活用されています。

研究ではDSTプログラムへの参加経験のある,障害を抱える女性3名へのインタビュー調査が行われました。質的分析の結果,DSTプログラムという安全な場が自分を表現する手段として機能していることや,発表の場=コミュニティで受容された経験がセルフ・アドボカシーの認識へとつながることなどが明らかとされました。

ポスター発表は,参加者とコミュニケーションが取りやすい発表形式です💡

※1 エンパワメント…個人や組織が,周りの環境とより良い関係を築くために,環境に働きかけたり,環境を変える力を獲得するための援助をすること。

※2 セルフ・アドボカシー(自己権利擁護)…生活する上で障害や困難を抱える人が,自らの権利や意思,利益を主張すること。例えば,自分がどのようなことに困っていて,どのような助けが必要かを周囲に伝えることが挙げられる。

再評価の使用による認知的評価の変容可能性の検討

榊原 良太先生は中学1年生を対象に,感情コントロールの方法の1つである再評価(reappraisal)※3が,その後の物事の捉え方(認知的評価)にどのように影響するか検証した研究を発表しました。

※3 再評価(reappraisal)…感情コントロールの手法の一つで,例えば,苦しい経験や辛い体験をしたときに「この経験が今後の成長につながるはずだ」「 苦しいのも一時のことだ」などのように,ストレスフルな状況から異なる解釈を積極的に導き出そうとする方略。

榊原先生は感情コントロールの研究もしています💡

 

研究では「中学1年生時」「1年後」という2時点で取得したデータをもとに,構造方程式モデリング(SEM)による交差遅延効果モデルcross-lagged effect model)という統計手法により,ある時点での再評価が1年後の物事の捉え方にもたらす影響,という因果関係が量的に検証されています。

その結果,ある時点における再評価の試みは,1年後の「原因をさがそう」「なんとかしたい」といった問題を積極的に解決しようと考えるコミットメントと関連することが明らかとなりました。

同じ研究テーマを持つ研究者との出会いも醍醐味の一つです✨️
写真左は認知臨床心理学がご専門の富山大学人文学部心理学教室 講師の重松 潤先生です。
※写真掲載の許諾を得ています

「心理療法の「見える化」の先に―マルチモーダル研究が拓く新たな可能性」

岩山 孝幸先生は,公募シンポジウムの企画代表者・話題提供者として,近赤外分光法(NIRS)という脳機能🧠を測定する装置を使い,心理療法中の治療者―クライエント(相談者)に生じている脳機能の変化を検討した研究の動向を紹介(レビュー)しました。

心理療法を「見える化」する研究に取り組んでいるチームでシンポジウムを行いました💡

例えば,これまでの研究では単なるおしゃべり心理療法を比較すると,会話をする際の注意機能を司る前頭前野(prefrontal cortex: PFC)は同じように機能するのですが,心理療法において相手の気持ちの背景を考えようとする右の側頭頭頂接合部(temporoparietal junction: TPJ)の同期現象が特に見られることが明らかとなっています。

また,初心カウンセラーよりもベテランカウンセラーにおいて,右のTPJにおける同期現象が強く見られることも分かっています。

当日は,研究チームのメンバーから不眠の認知行動療法(CBT-I)におけるクライエントの表情に現れる感情を解析し,不眠の改善度との関連を検討した研究について話題提供いただきました。

話題提供の後は,心理療法におけるマルチモーダル研究(身体の動きや発話など複数の指標を扱った研究)の経験がある研究者や,心理療法と脳機能の関連に取り組んでいる研究者からの指定討論を受けて,今後の研究の方向性をより明確化することができました。

 

 

なお,日本心理学会では高校生が研究発表できるプレゼンバトルも毎年企画されているので,意欲ある高校生の皆さんは是非チャレンジしてみてください💪

(アドミッション広報担当)

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