【言コミ】平岩 健 教授 外部講師講演会 (2018.10.13) 報告 [2018年10月23日(火)]

今回の後期外部講師講演会には、明治学院大学教授平岩健先生を講師にお招きすることができました。当日は、学外からの参加者4名を含め、合計22名の方々が、国内外トップクラスの生成文法研究者である平岩先生の講義(「名詞句内削除現象から見た人間言語の文法システムの普遍性と変異」)を熱心に拝聴しました。受講者から鋭い質問も出され、充実した時間があっという間に過ぎていきました。

平岩先生の提示された仮説を概略、以下のように紹介しておきます(以下、表記等をブログ用に変えてあります)。つまり、「名詞句内削除表現」(例えば、“Aya’s car is red” /「彩の車は赤い」における名詞句 “Aya’s car” / 「彩の車」の中の一部を削除した、“Aya’s is red” / 「彩のは赤い」における“Aya’s” / 「彩の」)は、「削除 (deletion/ellipsis)」(e.g., 英語)か「代用 (Pro-form)+縮約 (contraction)」(e.g., 日本語)のいずれかのメカニズムにより派生され、この派生の違いを導く主因は、個別言語における「一致 (Agreement) の有無・強弱」にあると考えるわけです。上の仮説を導く過程を、標準日本語、沖縄語那覇方言、富山方言、英語、韓国語、ダガリ語 (Dagaare)、スワヒリ語 (Swahili) 等の用例観察の結果を示されながら、溜息が出るほど見事に説明してくださいました。(因みに、「僕ののは貸せないよ」の「の」は順に、属格の「の」、代用形の「の」です。「のの」が縮約されて「(僕)の」になるというわけです。)

特に、沖縄語那覇方言では、[太良ぬ・すむち (N:本)](太良の本)から、[太良ぬ・むん (Pro-form)]は派生可能だが、[太良ぬ・*ぬ](沖縄語那覇方言には「ぬ」というPro-formは存在しない)は派生不可能であるため、[太良ぬ]は標準日本語の「代用+縮約」よりも、「すむち」の「削除」により派生されるという分析は、沖縄語那覇方言の名詞句内削除表現は標準日本語よりも英語と同じメカニズムにより派生されることを示しており、大変興味深いものです。報告したいことはまだまだ尽きないのですが、詳細は、Hiraiwa (2016) (“NP-Ellipsis: A Comparative Syntax of Japanese and Okinawan,” Natural Language & Linguistic Theory 34(4): 1345-1387) をお読みください。

平岩先生のご講演により、「なにげないところに人間の言語能力を解明する大きな手がかり」(ハンドアウトより)があるということを信じて、研究を進めていくことが、言語学界の発展に貢献し得る普遍性の高い仮説、ひいては、原理を導くことにつながるのであるということを改めて実感することができました。今回の講演をご快諾戴きました平岩先生と当日ご参加くださいました皆様に感謝申し上げます。