【英コミ教員記事】重松先生:英コミで古文書? 先生たちの研究は多種多様です。

英語コミュニケーション学科専任講師の重松です。私のゼミのテーマは、近現代日本研究です。突然ですが、皆さんは次の掛け軸の文字が読めますか?

行ごとに分けて解読すると、以下のようになります。

君子之道。或出或処。或
黙或語。二人同心。其利
断金。同心之言。其臭如蘭。
大木喬任書

三行目の最初の文字、「断」などは、なかなか読めないのではないかと思います。これが「くずし字」と呼ばれる書体です。私はアメリカの高校と大学を卒業したあと、日本について学び直したい、という気持ちが強くなり、帰国して入学した大学院で、日本近代史のゼミに入りました。

指導教授の島善高先生は、この「くずし字」解読の大家でした。ゼミの時間の大半は、辞書を片手に皆でうなりながら、江戸時代や明治時代に書かれた文字を読み解くことに充てられ、特に難しいときには1時間かけて1行も進まないこともありました。

私は何も分からずに大学院に進学したので、ずいぶんと長い間、「くずし字」解読は研究方法として非効率すぎると思っていました。しかし、古文書が読めなければ、すでに他の誰かが解読した資料だけで研究を行わなくてはならず、おのずと視野は狭くなります。また、研究書や論文には寿命があって、ほとんどの場合、100年も経てば広く読まれることはなくなります。しかし、「くずし字」を解読し、活字にした資料集は、その価値が古くなったり、損なわれることがありません。

なぜなら、先ほどの掛け軸の「断」の字は、1000年経っても、地球の裏側に持っていっても、「断」と読む他はないからです。島先生は、研究者の理想として、与謝野晶子の歌、「劫初より作りいとなむ殿堂にわれも黄金の釘ひとつ打つ」の話をされたことがありました。劫初(ごうしょ)とは、この世の初めのことです。価値が永遠に損なわれない黄金の釘。そのようなものを、われわれは作っているのだ。2年前に他界された先生のことを、私は折々に思い出します。

せっかくなので、掛け軸について説明をしましょう。これは、明治時代に長く文部大臣、司法大臣をつとめた政治家、大木喬任(おおきたかとう)の書です。古代中国の思想書『易経』中の孔子の言葉が書かれており、大体の意味は次の通りです。

君子の道、或いは出で或いは処(お)り、或いは黙し或いは語る。
二人心を同じくすれば、その利、金を断つ。
同心の言は、その臭(かおり)蘭の如し。

優れた人間の生き方には、世の中に認められることがあれば、そうならないこともあり、
沈黙を続けることもあれば、声を上げねばならないときもある。
二人が心を合わせれば、その鋭さは金属をも断ちきり
心を同じくして語られる言葉は、蘭の香りを放つかのようだ。

大木喬任には江藤新平という同志がいました。この掛け軸には、口下手で寡黙がちだった大木と、雄弁で知られた江藤の関係が垣間見えるようです。私は今、大木喬任の資料集の作成に取り組んでいます。一部は、読みやすい談話筆記ですので、関心を持ってくれた学生が読んでくれたら大変うれしいです。

重松ゼミの紹介は以下の記事よりチェックしてみてください。
https://content.swu.ac.jp/engcom-blog/2021/12/15/elc-seminar-shigematsu-sensei/