7月5日(水)に、特殊研究講座が行われました。今回は、社会福祉法人・豊中市社会福祉協議会・コミュニティソーシャルワーカーの勝部麗子さんをお招きし、「未来を創るソーシャルワーカー~ドラマ『サイレントプア』の現場から~」というテーマでご講演いただきました。
勝部さんは、学生時代から福祉の道に進もうと決めていたわけではなく、教育にも関心を持たれていたそうです。しかし、教育実習へ行った際に、劣悪な家庭環境に置かれている子どもがいること、その家庭環境によって学習ができる状況にない子どもがいることを知り、福祉の必要性を実感されたそうです。また、福祉事務所の実習において、該当する制度がないという理由で支援を受けることができない人々の姿を見て、福祉の道に進もうと決心されたそうです。そして、今日までコミュニティソーシャルワーカーの第一人者として、ごみ屋敷や引きこもりなど、多くの問題を解決されてきました。
コミュニティソーシャルワーカーとは、「断らない福祉」をモットーに、制度の狭間にいる地域住民を、住民と協働しながら見守りのネットワークを築いていく仕事です。勝部さんは、このコミュニティソーシャルワーカーのパイオニアとして、新しい道を切り開いてきました。勝部さんが仰った“ないものはつくる”という言葉は、ニーズが多様化する現代において、必要不可欠の概念であると確信しました。
この夏、私たち三年生は、社会福祉士・保育士実習を行います。進路を決めるという意味でも非常に意味のある実習になると考えています。しかし、もしかしたら自分が思い描いていたものとはかけ離れた現実が待っているかもしれません。その時に、自分には向いていない、と思うだけでなく、どうしたら現実が改善するのか、何が必要なのかという視点を持つことも大切だと勝部さんの実習経験のお話を聞いて感じました。「なんで?どうして?それじゃダメじゃん!」という思いを大切にし、それを解決するためにはどうしたらよいのかを一人ひとりが考えられるようになれば、社会に出た際に、自分がするべきこと、やりたいことを明確にすることができるのではないでしょうか。
本講演のテーマにもなっている、ドラマ「サイレントプア」は、勝部さんが監修をされています。そして、深田恭子さん演じる主人公のコミュニティソーシャルワーカーは、勝部さんがモデルとなっています。「サイレントプア」は、問題を抱えていながらも「助けて」と言えない貧困を意味しています。地域には、経済的な貧困だけでなく、言えない貧困=人間関係の貧困も潜んでいるのです。このように、声を上げることができない人々に、ほんの少し寄り添い、ほんのちょっと力になることが大切であり、これこそ正に、ソーシャルワーカーの醍醐味であると教えていただきました。
勝部さんは、コミュニティソーシャルワーカーのパイオニアということもあり、何があっても前進できる強さをお持ちの方だと勝手に想像していました。しかし、三人のお子様を育てながら仕事をすることに限界を感じたことがあったそうです。そのことをお子様に告げると、「お母さんがやめたらみんなさみしいと思うな」と言われたそうです。この言葉で、勝部さんはコミュニティソーシャルワーカーを続ける決心をされたそうです。このお話を聞いたときに、一人で生きていける人間なんていないのだと気づきました。それと同時に、だからこそ、支えてくれる存在・バックグラウンドが必要なのだと気が付きました。私には、家族というバックグラウンドがあります。きっと、多くの人が拠り所としている存在だと思います。しかし、親のいない子どもたち、一人で暮らす高齢の人々、身寄りのないホームレスの人々は、家族というバックグラウンドがありません。だからこそ、地域において、住民が住民を支えていく仕組みが必要であり、誰もが安心して社会に踏み出せるように、バックグラウンドを創設していくことが、大切だと感じました。
「本当のことは、見ようとしないと見えない」「文句を言う人は心配をしてくれている」「一番厳しい人を見捨てる社会はみんなが見捨てられる社会」これらは、講演中に最も印象に残った言葉です。ソーシャルワーカーに求められる視点や資質がこれらの言葉に詰まっていると感じました。これらの言葉を心にとめて、勝部さんのように本当に支援を必要としている人を支えていけるソーシャルワーカーになりたいと感じました。
(3年 樋口)