現代教養学科の田中です。今回は日本のインターネット黎明期をえがいた本を2冊紹介します。
「日本インターネット書紀-この国のインターネットは、解体寸前のビルに間借りした小さな会社からはじまった-」鈴木 幸一 (著) 講談社 (2015/3/13)
「僕たちのインターネット史」ばるぼら, さやわか (共著) 亜紀書房(2017/6/17)
どちらも1990年前後の日本のインターネット黎明期を実体験した著者が書いた書籍です。
ただし、「日本インターネット書紀」は日本の最初のインターネット接続会社(プロバイダー)であるIIJ(インターネットイニシアティブ)の鈴木 幸一(CEO)がインターネットの仕組みを作り上げていった側から、一方の「僕たちのインターネット史」はインターネット黎明期の豊富な経験を持つお二人がエンドユーザー側で、それぞれの目で見て耳で聞いたことを中心に、年ごとに拡大し激変する様を書いている点が異なります。
このような異なる視点から同じ事象を書いた書籍を読み比べると大変に面白いんですよ。インターネット黎明期というと個人的には「ちょっと前の話」の感じがします。当時なら誰でも知っていたようなエピソードたち。でも、そろそろ当時を知る人が少なくなり始めていて、だれかが記録しておく必要が出てきました。いわゆるアーカイブスってやつです。この二冊もその仲間なのでしょう。
さて、ここからは私の経験したこの時代の雰囲気を感じることのできるエピソードを1つ紹介します。1995年頃の話です。当時は電話回線によって接続していて、プロバイダーに支払うインターネットの利用(接続)料金とは別にアクセスポイント(AP)までの電話料金がかかりました。当然、市外のAPにつなぐとかなり高額な料金がになるので、市内にAPを持つプロバイダーを選ぶことになります。ここにビジネスチャンスを見いだした様々な業者がプロバイダー業に名乗りを上げ、小規模プロバイダーが乱立する事態になります。さて、私の条件の良いプロバイダを選び、インターネット生活を始めたのですが、今では考えられないようなことが次々と起きます。
【今では考えられないこと】
その一:プロバイダーと契約しメールが使えるようになった夜のこと、いきなり同じプロバイダーの知らない人からメールが来ました。「同じプロバイダーの会員となったのも何かの縁ですから、歓迎会をしましょう!今度の週末はいかがですかね?」。プロバイダーのWEBサイトの会員向けページに載っていた私のメアドと本名を頼りに連絡したそうです。個人情報って言葉はまだメジャーじゃ無かったんです。
その二:社長さんが専門学校の学生だった。成人式のスーツ代を元に機器一色と回線を買って、住んでいたワンルームマンションを事務所兼サーバ室としてプロバイダーを起業したんだそうです。社員は同じ専門学校の同級生を「忙しくないときはインターネットがただで見放題」と言って安く雇ったんだそうな。後に大手に吸収されましたが。
その三:たまに多摩川の河原でBBQをしていたんだけど、だいたい誰かがこう叫ぶわけだ「よし!社長を呼ぼう。お客様が飲んでいるのに来ないとは何事だ!」と言って、酔っ払ったおっさんたちが社長を呼び出して、やってきた社長に会社経営の心得とか説教していた。
その四:会員同士の飲み会が毎週のように有って、そこで知り合ったカップルが結婚しちゃった。しかも複数。ちなみに子供が生まれたときには旦那さんがチャットで名付けの相談してました。
いや、むちゃくちゃな話のようですが全て実話です。
牧歌的というか、インターネットをやってるような物好きはまだまだ少数派だったので、みんな仲良しでしたよ。みんなコンピュータオタク仲間。「そこにユートピアがある」ってセリフが現実のものでした。
それから数年もすると一般の人たちがドッと入り込んできて、あっという間に消え去ってしまったインターネット黎明期の一幕を紹介しました。
現代 田中