シム チュン・キャット先生による「現代社会論」という授業では、日本社会とシンガポールの社会、さらに世界各国と比較したデータなどを見て、日本のあり方について考え直す授業です。また、受講者の各グループで気になる国を取り上げ、その国の基礎データから教育制度や社会問題などについて発表し、各国が抱える課題についても考える授業でもあります。
さて、この授業の第6回目に、外部講師としてネパールのニューライフ学校から副校長兼教務主任のビル先生にお越しいただきました。今回の講義では主に、親が日本に出稼ぎに来て、ネパールに残されている子どもや日本で長く生活していたがために帰国後の学校生活で苦しんでいる子どもたちについて、日本でカレー屋さんとして働く家庭が多いバグルン郡のガルコット市を中心に授業をしていただきました。
ガルコット市は2021年の時点で人口が約3万人で、国税調査によると、海外出稼ぎが多いために、人口は年々下がっています。識字率は80.6%とネパールの全国平均よりは高いものの、女性は男性より13%も低くなっています。加えて驚いたことに、ガルコット市では親と離れて暮らす子どもの割合はなんと35%をも超える結果が出ています!
また、ネパールの学校制度は日本と大きく異なっています。小学校は8年次まであり、1~7年まで校内試験を受け、8年次は自治体による試験を受けます。9~10年生は中学生となり、10年次はSEE(Secondary Education Examination)という連邦試験を受けます。これらの試験ではレベル分けのような仕組みになっていて、上級クラスに通うにはそれなりにスコアを取らなければいけません。最後に11~12年次は高校生という分かれ方をしています。
さらに日本とは違い、無償教育(ただ制服・試験料は別)で小学校から高校まで同じ学校に通い続けるという教育制度になっているのです!
ビル先生の話によれば、親の出稼ぎによる影響は精神的にも身体的にも子どもにとって大きいものです。親だけが出稼ぎに行っている場合、子どもは他の子が親といるところを見て寂しさを覚えたり、家でゲームばかりしたりすることが増え、成績の低下に繋がってしまいます。逆に、日本で生まれたり親と一緒に来日したりした後に帰国した場合は、日本に長くいたゆえに、言葉や教育制度の違いの壁に当たり、進級が難しくなる子もかなりいます。
しかし悪いことばかりではありません。成績が落ちていたのですが、地元の事情や親の苦労を知ることにより、夢を持ち始め、夢に向かって熱心に勉強に励んでいる子もいます。
一方で、子ども以外でも出稼ぎによる新しい問題が出てきています。それは、子どもの出稼ぎがもたらす高齢両親の孤立と孤独です。大きな家に高齢者夫婦2人だけで暮らしている家庭もあり、2人の健康面なども含めて、このままでいいのかという問題が近年大きくなっています。また、日本で働いている間にガルコット市内で亡くなってしまった老親の遺体を、喪主である子どもの帰国までは冷蔵庫に入れておき、家族の帰国を待っているという現状も問題として露になってきているとのことです…
最後に、今回の講義で学んだことを全ては書ききれませんでしたが、ネパールの社会問題を直接ビル先生から伺うことができて実にいろいろと考えさせられる良い機会になりました!何より、日本にある外国人経営のカレー屋さん(主にネパール人)をみる目がガラッと変わったことは言うまでもありません。
ビル先生、貴重なお時間を頂き、本当にありがとうございました!ぜひ、また来日していただきたいですし、私自身もネパールに行きたいと強く思いました!
記事:2年・大澤