研修報告【社会調査研修2024】京都 (1) 非公開文化財で皇室ゆかりの文化を体感

現代教養学科が毎年開講している「社会調査研修」で、昨年度は国際観光都市として多くの観光客が来訪する京都のオーバーツーリズムに注目し、観光混雑の分散化をテーマに8月27日〜29日に実地踏査を行いました。10月・11月には二度の学会発表に挑戦し、学園祭“秋桜祭”やオープンキャンパスでは調査結果に基づいてパネル展示を行いました。3月には、1年間の研修内容について全員が執筆した100ページにわたる報告書を完成させることができました!

今日から4回に分けて、研修内容をご紹介していきます。非公開の文化資源調査などを含むため、全部の写真は掲載できないのですが、報告書はオープンキャンパスや学園祭などで展示しますので、ぜひ見にいらしてください。

次回オープンキャンパスは6月22日です。ご来場をお待ちしております!

【光照院】(非公開)

8月27日は、京都市上京区にある光照院を見学させていただきました。
皇室ゆかりの尼門跡寺院である光照院は、1356(延文元)年に進子内親王が建立して寺号を光照院と定めたのが起源とされ、歴史的建造物や樹齢500年の五葉松などがあります。2『尼御前の昭和・平成・令和』(あんびしゃ文庫、2024年7月)の著書がある本間寛治氏から光照院に関する講話を聞き、住職の伏見浄香氏からは主に伝統的な組紐について説明を受けました。組紐は贈りものを縛る際に用い、その結び方は家系によって異なります。名前を書かなくても誰からの贈り物かが分かるという日本独特の文化を学び、代々受け継がれてきた日本の奥ゆかしい伝統文化の一端を垣間見ることができました。
境内には、1928(昭和3)年の昭和天皇御大典の大嘗宮朝集所が移築された常磐会館があり、昭和天皇即位の間を特別に見学させていただきました。この即位の間には、一枚の赤い絨毯や花の立体刺繍、昭和初期の室内装飾品などがあり、皇室の歴史と文化に触れることができました。特に昭和初期のランプシェードやその装飾は再現が難しく、建物や内装の保存が重要です。

これらの場所は現状だと一般公開されていませんが、もし観光資源として開放されれば、多くの観光客が出入りすることによって建物や装飾の劣化が懸念されます。特に再現が難しい昭和初期の室内装飾品や刺繍、組紐などは、貴重な文化遺産として適切に管理しながら保全することが重要です。多く見学者を受け入れつつ、これらの品々を保全することは難しいかもしれません。
今回の見学を通して、現状では非公開となっている貴重な文化財が一般公開しづらい理由を考え、文化的な価値の高い品々や建物を守りながら観光活用し、外国人観光客を含む多くの方々にその価値や魅力を伝えていくためには、こうした非公開の場所を例えばVRやAR等の技術を使って、バーチャル空間やワークショップなどで新たな観光資源として発信していくのも一つの可能性として考えられます。文化を守りつつ、観光地としての新たな価値を見出すためには、最新の技術を駆使するなど特別な工夫が必要だと言えます。

光照院門前(左) 光照院の説明看板(右)

(富所)

【得浄明院】(非公開)

光照院と同様に一般公開されていない得浄明院は、信州善光寺の京都別院の尼寺として1894(明治27)年に建立されました。包み紙のワークショップと戒壇巡りを体験しました。
包み紙のワークショップでは、お金やお菓子などを入れて贈り物として渡す包み紙の折り方を教えていただきました。紙の種類で中身の価値を、また包み方で誰からの贈り物かを伝えることができるため、当時は高価だった紙に中身や金額、差出人をわざわざ書かなくても良い点がこの包み紙という文化を生んだ背景だと学びました。
戒壇巡りを体験しました。戒壇巡りとは、一光三尊像が安置されている本堂の真っ暗な床下を壁伝いに進んでいき、錠前にたどり着いたらそれを握りながらお願い事をするという体験でした。想像以上に本堂の床下は暗くて何も見えない状態だったので、不安になりましたが、無事に一周してお願い事ができたことは、非常に貴重な経験になりました。
今回体験したワークショップは、一般には行われていないとのことであり、外国人観光客向けに開催すれば注目されるコンテンツになることが考えられます。しかし一方で、伝統への知識を持つ人材と、それを文化的背景の違いも考えながら適切に説明できる教養と語学力のある人材が必要な点が大きな課題です。

得浄明院門前

(田所)

組紐や刺繍などの写真は、報告書に載っています。ぜひオープンキャンパスでご覧ください。
次回は、近代になっても文化的な都市としての歴史を紡いできた側面から京都を見ていきます!