管理栄養学科4年 西山さん(川崎研究室)、第93回日本生化学会において英語で発表

管理栄養学科教員の川崎です。
今回は、川崎研究室4年生の西山さんの学会発表についてご紹介します。

昨年9月に開催された第93回日本生化学会大会で、西山さんが筆頭演者として演題「Detection of tryptophan nitration in food product as a step towards elucidating physiological effects of tryptophan nitration」(訳:食品中のニトロトリプトファンの検出 ~ニトロトリプトファンの生理機能の解明に向けて~)の発表を行いました。同大会は、本年度はコロナ禍のためWeb開催となり、10分間の動画発表となりました。西山さんは卒業研究で得られた成果を世界に向けて発信するため、英語での発表を試みました。

下記の図1、2は、西山さんが実際に動画発表で使用したスライドの一部、図3は発表練習を行う西山さん(画面右奥)です。

図1.  食品中のニトロトリプトファン検出の意義①

図1日本語訳
トリプトファンは必修アミノ酸であり、ホルモンであるメラトニンや神経伝達物質であるセロトニンの材料として用いられたり、ATPの合成過程で使われるNAD+の材料になったりします。必須アミノ酸はヒトの体内で合成できないので、食品は重要な供給源です。

 

図2.  食品中のニトロトリプトファン検出の意義②

図2日本語訳
他のグループの研究によって、遊離の6-ニトロトリプトファン(遊離とはタンパク質に組み込まれていない単独のアミノ酸として存在する状態のこと)が、トリプトファン代謝に重要なキヌレニン経路(図中に示した反応経路)の酵素であるIDOの働きを抑えることが報告されています。この報告はヒトの体内で起こっている現象を直接観察したものではなく、試験管内で現象を観察したものですが、もしヒトの体内に遊離の6-ニトロトリプトファンが入り込んだら、生体内でも同様に酵素の働きが抑えられ、何らかの体調への変化 ( 病気? 健康増進? ) が生じるのかもしれません。

 

図3. 川崎研究室での発表練習

発表内容は、タンパク質に含まれるアミノ酸の1つであるトリプトファンにニトロ基が付加されて生じる6-ニトロトリプトファンが、動物や植物に由来する食材中(鶏肉や大豆など)に存在することを初めて明らかにしたというものです。これまでの研究では、炎症を伴うような病気のヒトや動物の患部で、酸化ストレス(酸化ストレスについては、以前のブログ参照:【研究紹介】 酸素は敵か味方か!? )の増加に伴う6-ニトロトリプトファン生成が確認されており、6-ニトロトリプトファンの生成がタンパク質の機能を損ない、病気の症状が生じるのではないかということが報告されています。

しかし、今回の研究によって、6-ニトロトリプトファンが病気のヒトの体内で生じる以外にも、食事から体内に取り込まれている可能性があり、これがヒトの健康に何らかの影響を及ぼしているかもしれないというということが示されました。

現在、西山さんの研究結果をさらに発展させ、6-ニトロトリプトファンの消化・吸収の機構、さらには様々な代謝の機構に及ぼす影響を明らかにすべく、川崎研究室の後輩たちが頑張っています(下記の図4)。

図4. 川崎研究室が食品中のニトロトリプトファンを調べる目的

図4日本語訳
西山さんの研究で、最初のステップである食品中のニトロトリプトファンの存在の確認を達成しました。ここからは、ニトロトリプトファンの消化吸収や体内での働きといったヒトの体への影響を調べ、健康への影響を明らかにしてゆきます。

 

管理栄養学科では、卒業研究をはじめとした研究活動への学生さんの積極的な参加を推奨しています。各教員が熱意をもって専門分野の研究を指導しており、学生の皆さんが各々の頑張りを学会や学術論文などで発表する機会も用意しています。このように先端の研究に携わる経験ができるのも、管理栄養学科の魅力の一つです。