「管理×グローバル」シリーズ 国際DOHaD学会に参加して

今回は管理栄養学科の小西香苗先生が8月に参加された

国際学会の様子についてご寄稿いただきましたのでご紹介します。

2022年8月27日から31日までの間、カナダのバンクーバーにて開催された

第12回国際DOHaD学会に参加しましたので、その様子をご紹介します。

国際DOHaD学会は、将来の健康と疾病の発症起源に関する研究と教育を促進し、

人生の健康的なスタート(胎児期・乳幼児期)を世界的に提唱している学会です。

国際DOHaD学会のメンバーは、世界60か国以上の科学者、研究者、医療専門家、

教育者などからなります。COVID-19の影響で1年延期された国際DOHaD学会でしたが、

世界中50カ国以上から1000名以上の参加があり、

日本からは出国制限のある医療機関の研究者の参加ができなかったこともあり、

前回2019年メルボルン開催よりは大変少ない参加人数となりました。

この時期の海外渡航は、カナダ入国に必要な電子渡航認証制度(e TA)の他に、

コロナ渦ということもあり英文予防接種証明書、予防接種アプリ登録、

カナダ入国必須アプリarrive CAN登録、帰国前72時間以内のPCR検査(陰性証明書)手配など、

数々の事務的手続きに加え、航空便チケット(燃料サーチャージ)や

ホテル料金の異常な高騰、円安、インフレによる影響などがあり、

今回の国際学会参加はいくつものハードルを越えての参加となりました。

会場はバンクーバー港に突き出た桟橋にあるカナダ・プレイス

(巨大な帆船のような変わった屋根のデザイン)にある

バンクーバー国際コンベンションセンターです。

この桟橋には、大型客船も停泊しており、

バンクーバー観光の拠点のような場所でもあります。

学会は朝8時からキーノートレクチャーが始まり、

メインのシンポジウムや演題発表など18時ごろまで続きます。

途中にコヒーブレイクやランチを挟みながら、興味のあるセッションへと足を運びます。

ネイティブの英語に五感をフル回転させ、内容理解に集中する毎日でしたが、

斬新な研究や社会的意義深い研究など、毎日がとても刺激的でした。

今回の学会テーマは

「Social and environmental disruptions in DOHaD: successful interventions for a healthy future

(DOHaDにおける社会および環境の混乱: 健康的な未来のためのより良い介入)」であり、

出生前・妊娠中の自然災害や気候変動が児の発育・発達に与える影響、

先住民、移民など社会的不平等による影響などがテーマでした。

特に印象に残ったのは、日本ではまだ余り報告されていない、

コロナ禍で妊娠・出産を迎えたことがどの様な健康影響を母児に与えているかなどの研究でした。

コロナストレスによる妊婦への健康影響の報告は大変興味深く、

世界の研究者がいち早くコロナが与えた負の健康インパクトを見える化し、

対策をとっている点に驚かされました。

さて、私の発表はというと、学会最終日の午前中にポスター発表にて行われました。

妊娠中の鉄剤補給が必要になる母親は、妊娠中の栄養摂取(鉄の摂取含む)とは関係なく、

妊娠前BMIが低く、妊娠前に痩せ体格であるほど

妊娠中に鉄剤補給が必要になるリスクが上がることを報告しました。

妊娠が分かってから栄養のある食事をしたのでは、妊娠中の貧血は予防できないという結果です。

この発表に対してカナダ北東部の研究者から、妊娠前のやせが問題で、

妊娠中も食事からの鉄分補給が十分でないカナダの妊婦の現状が、

まったく日本と同じ状況であるとのコメントを頂きました。

カナダではアザラシの肉を伝統的に食べる習慣があり、アザラシの肉には鉄分が多く含まれ、

妊娠中に是非食べてほしい食品ではあるが、なかなか妊婦には好まれないと嘆いていました。

同じ関心を持つ異なる食文化や食習慣の国の研究者とのディスカッションは大変有意義であり、

また、次に行う解析や研究のヒントを頂くことも多々あります。

 さらに今回、私のポスターにBritish Journal of Nutrition (Cambridge University Press) の

「WE LIKE YOUE PAPER」シール(写真)が貼られており、

私の研究が学術出版社の目に留まったことも、大変うれしい出来事でした。

 空いた時間で、現地のマーケットや週末のファーマーズマーケットも観てきました。

また、スシ・レストラン、ラーメン専門店、ポークカツレツ(豚カツ)専門店など、

日本食店も多く見かけました。現地の人々の食習慣にリアルに触れるにつけ、

なぜ高い肥満率なのか、なぜ心疾患が多いのかを考えずにはいられません。

このような私の体験を通じて学び感じたことを、

研究活動だけでなくゼミや講義にて学生さんに伝えていきたいと思います。

 

DOHaDとは、「受精時、胎芽期、胎児期の子宮内及び乳幼児期の望ましくない環境が

エピゲノム変化を起こし、それが疾病素因となり、出生後の環境との相互作用によって

疾病が発症する。生活習慣病等の多因子疾患はこの2段階を経て発症する。」というDOHaD学説のこと