ベトナム・バックカン州の岩山で出土した衣服および布類の調査分析

2018年、ベトナム社会主義共和国の北部に位置するBak Kan州Cho Don地区Ban Thi村にある高い岩山の岩穴で民間人が二個の甕を発見した。この甕の中には衣服、布片、紙類および銀製のノブが入っていた。これらの衣服および布片は21点あり、発見された甕は蜜蝋で密閉されていたため、劣化が少なく衣服形態をとどめているものも少なからず存在した。
この出土遺物を管理している東南アジア先史研究センターのヴィエット博士から共同研究の提案を受け、2024年3月と2025年3月に現地に足を運び、出土した衣服類の形態、素材、布の織組織、用いられた絹繊維についての太さについて調査した。
21点の内訳は、上衣12点、下衣4点、イェム(胸当て)1点、布3点、旗1点であった。そのうち男性用上衣の3点のみ綿製であり、他は全て絹製であった。絹製の衣服の中で、劣化の著しい試料と劣化の少ない試料の2点についてC14年代測定法による時代測定を行った結果、1440~1630年代のものと推定された。縫製は全般に縫い目が細かくプリーツやギャザーが巧みに施されていた。形状については、ベトナムにおける服飾史の文献資料が少ないため、これらと年代の近い中国明代の衣服形態と比較したところ、形状は類似しているが、袖の長さやプリーツの有無などの差異もあった。また、一部の衣類は仕付け糸が付いており製作途中であること、旗は目印となる部分が取り外されていたことに加えて、推定された年代のベトナムは周辺国との戦争や内乱、農民の蜂起などが頻発していた時代であることから、この甕は所有者の逃避行の際の一時的な保管として隠されていた可能性が考えられる。これらの調査分析結果について2026年7月25-26日に開催された日本文化財科学会第43回大会にてポスター発表を行った。