<日文便り>
この文章がアップされる7月25日はかき氷の日だそうです。な(7)つ(2)ご(5)おりという語呂合わせに加えて、83年前の1933年に山形で40.8℃を記録した日に因んで、日本かき氷協会が制定した記念日で、この40.8℃は2007年8月に熊谷と多治見で40.9℃を観測するまで、74年間日本の最高気温記録でした。
かき氷の歴史は平安時代まで遡ります。「枕草子」には「あてなるもの。……削り氷にあまづら(甘味料)入れて、新しき金まり(金属製のお椀)に入れたる。」の一節があり、氷室に保存していた氷を平安貴族たちは夏に取り出し、束の間の冷たさを味わっていました。その後約900年経った明治以降、製氷技術の発展により、かき氷が一般に普及します。「坊ちゃん」では山嵐が坊ちゃんに「氷水を一杯」奢り、同じく漱石の「行人」には「…氷の中に苺を入れるかレモンを入れるかと尋ねた。」という箇所もあり、漱石の頃には、かき氷は夏の風物詩として定着していたようです。
かき氷の店を描いた小説としては、よしもとばななの「海のふた」があります。昨年映画化された作品で、よしもとが小学生の頃から馴染んでいた西伊豆の港町が舞台となっています。故郷の寂れた町に帰郷し、かき氷の店を始めた「私」の実家に、祖母を亡くしたはじめが一夏滞在します。物語ではこの二人の女性がそれぞれの道を見出していく様子が語られますが、「私」がチェーン店化を断り、小さなかき氷の店のままで続けていくことを確信した場面は次のように描かれています。
氷は溶けるもので、すぐになくなるから、私はいつもちょっとしたきれいな時間を売っ
ているような気がしていた。一瞬の夢。それはおばあちゃんでもおじいちゃんでも小さ
な子でもお年頃の人たちでも、みんながうわあとそこに向かって、すぐに消えるしゃぼ
ん玉のようなひとときだった。
そんな感じがとても好きだったのだ。
氷を削る「とても地味な作業」の「地味さのむこうにあるものを」発見していく「私」の姿が印象的です。
(Y.I)