三月の甘納豆のうふふふふ
俳人・坪内稔典による春の一句には、つられて笑い出したくなるような愛嬌があります。ひな祭の頃には、雛あられ、菱餅、ちらし寿司など、桃の節句に相応しい華やかな色合いの食べ物が思い出されますが、この句を知ってからは「三月」と聞くと、ころころとした軽やかな佇まいの甘納豆が浮かぶようになりました。
この句の最後にある「うふふふふ」という笑い声。この五つの音を聞くと、おへそのあたりをこちょこちょとくすぐられ、「やめてよ」と言いながらも堪えられずに笑ってしまうような、妙な幸福感が込み上げてきます。「あはははは」でも「いひひひひ」でも「おほほほほ」でもなく、「ふふふふふ」でさえしっくりきません。ここはやはり「うふふふふ」でなければと思うのです。
坪内稔典は月毎に「甘納豆」の句を詠んでいます(「甘納豆十二句」)。わたしのお気に入りはなんと言っても3月ですが、
一月の甘納豆はやせてます
十二月をどうするどうする甘納豆
などにも絶妙な季節の捉え方があって、心惹かれます。
弥生三月、大学内の花もほころんで暖かい日も増えてきました。新学期・新生活に向けて忙しく過ごしている頃かとは思いますが、ちょっと立ち止まって、笑いがこぼれる、くすぐったいような春を見つけてみませんか。

参考:『坪内稔典句集』(現代俳句文庫1)、ふらんす堂、1992
(鵜飼祐江)