2022年3月1日に,羽村市教育委員会教育支援室から研修会講師をご依頼いただき,心理学科助教・岩山 孝幸が講師を務めました。
当日は「ケース・フォーミュレーションの実際~保護者や教師とチームで行う支援~」と題し,7名の相談員の先生方にオンラインでご参加いただきました。
支援チームを作るために~コンサルテーションモデル
教育現場では,保護者や教師の方々から子どもへの接し方や関わり方を相談されることがあります。
その際,相談員やスクールカウンセラーは,直接子どもと関わる保護者や教師の方々を支援することで,子どもが抱える困りごとを間接的に支援するコンサルテーションという支援活動を行います。
問題を抱える本人に対して行われるカウンセリングに対し,コンサルテーションでは「相談者」を共に問題解決を行うチームのメンバーと考えます。コンサルテーションにおいて心理職は,その専門性を活かして問題を整理し,解決策の提案を行うこともあります。
保護者や教師を問題を抱える人として見なすのではなく,問題解決を行うチームのメンバーとして考えることがなぜ重要なのでしょうか。
保護者や教師の立場で少し考えてみてください。
特に,相談内容が子どもの問題行動の場合,保護者の場合「しつけがなっていない」,教師の場合「指導方法が悪い」と,自らの関わりを批判されるのではないかと不安を感じることも少なくありません。「相談する」ことはして当たり前のことではないのです。
そこでコンサルテーションモデルに立つことで,同じ子どもの問題行動に関する相談であっても「恥ずかしいことを打ち明ける場」ではなく,「問題解決のための情報提供の場」であることになり,問題解決のために協力していきましょうという雰囲気が作られやすくなります。
ケース・フォーミュレーションの効用
コンサルテーションでは相談者が抱える「問題」の共通理解を得ることが重要です。
コンサルテーションを行う心理職が頭の中で問題を理解しているだけでは,保護者や教師はどうしたら良いか分からず困ってしまいます。
また,頭の中で考えたことをもとに「~してはいかがですか」と急にアドバイスされても,これまで「~できなかった」ことを暗に批判されたと受け取られてしまうこともあります。一方だけが問題を理解しているだけでは不十分なのです。
そこで,ケース・フォーミュレーションを共有することが重要となります。
ケース・フォーミュレーションとは,相談者が抱える困りごとが「なぜ生じ,今も続いているのか」に関する仮説を意味します。
得られた情報をもとに「なぜ困りごとが続いているのか」を保護者や教師の方々に理解してもらえるような形で説明することで,「問題」の共通理解が得られやすくなります。
当日は架空の事例をもとに認知行動療法に基づくケース・フォーミュレーションをいくつか提示し,実際の作り方を解説しました。
参加いただいた皆様から以下の感想を頂戴致しました。お忙しいところご参加いただき本当にありがとうございました。
- 具体的な事例検討があって、今後に役立つ内容を聞くことができてよかったです。
- 知識だけではなく、実例に即した介入方法を教えていただいて、大変勉強になりました。
- いろいろな技法のエッセンスをわかりやすく、一貫した切り口でご講義いただき、ありがとうございました。さっそく午後の面接で活用させていただきました。
- 改めて振り返った際に、自身が雑な臨床をしていた部分がとてもよく見えました。提案の裏のメッセージ、保護者や教員の負担感の部分に更に目を向けて、今後の面接を行っていきたいです。
(一部抜粋)
私自身これまでの経験から,支援者側がどのようなスタンスで支援を行うかで,保護者や教師の方々の相談へのモチベーションが異なることを感じてきました。はじめは相談することに対して懐疑的だった方も,ケース・フォーミュレーションを一緒に作り上げるプロセスを通じて,相談の意義を感じやすくなったようでした。
私たち一人ひとりで出来ることは限りがありますが,共に考えることで何かしらの解決策が見いだせることも少なくありません。ケース・フォーミュレーションを共有することが,保護者や教師の方々とチームを組みやすくなるきっかけとなれば幸いです。
以上のように,大学教員は大学内で授業を行うだけでなく,学外のニーズを受けて研修講師を担当するなど地域貢献も積極的に行っています。
学内の知的資源や研究成果などを多くの方に役立てていただけるよう,今後も積極的に活動していきたいと思っています💡
(心理学科助教・岩山)