【生活機構学専攻】紀要論文紹介:リワークプログラムにおける心理劇のサープラスリアリティの検討 -対人コミュニケーションの不安を扱った心理劇での監督の実践上の工夫から-

大学院附属の生活心理研究所では、毎年度研究紀要を発刊しています。

今回、研究紀要の最新号に、2015年度心理学専攻(修士課程)および、2024年度生活機構学専攻(博士後期課程)を修了し、今年度より本学心理学科に助教として着任された榎本 万里子先生の修士論文の研究をまとめたものが掲載されました。

榎本 万里子・島谷 まき子(2024).リワークプログラムにおける心理劇のサープラスリアリティの検討 -対人コミュニケーションの不安を扱った心理劇での監督の実践上の工夫から-
昭和女子大学生活心理研究所紀要27,1-13

紀要論文の掲載に際して、榎本先生に論文の内容や研究テーマの決め方などをインタビューしました💁‍♀

大学院への進学を検討されている方にとって,臨床心理学に関する研究活動の紹介になれば幸いです💡


現在のお仕事を教えてください。

今年度より本学心理学科の専任助教に着任いたしました。公認心理師臨床心理士の資格を持っています。専門は臨床心理学です。

昨年度までは、非常勤で精神科クリニックでの復職支援(精神科デイケアにおける「リワークプログラム」*)、他大での学生や教職員を対象としたメンタルヘルス相談に携わり、非常勤講師として本学や他大で心理学関連の授業も担当していました。

本学では、公認心理師養成課程における科目(主に公認心理師の職責関係行政論)を担当することになっています。また、臨床実践の場として、精神科クリニックの勤務も続けています。

*「リワークプログラム」とは、うつ病や適応障害などの精神疾患により休職している方が、職場復帰に向けて心身の状態を整え、再発・再休職を予防するための支援プログラムです。医療機関や地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などで実施されています。

 

紀要論文の内容(研究テーマ)を教えてください。

本稿では、精神科デイケアのリワークプログラムで主役の対人コミュニケーションの不安を扱った「心理劇(サイコドラマ)*」の実践を通して、進行役である監督のどのような実践上の工夫が「サープラスリアリティ*」を促進させ、その「サープラスリアリティ」が監督や主役、およびグループとの関わりにおいてどのように効果的に作用したのかについて検討しました。

*「心理劇(サイコドラマ)」とは、個人(集団)における関心事や課題を、言葉や身体表現を用いる即興劇を通して表現し、心理社会的成長を促す集団心理療法です。
*「サープラスリアリティ」とは、心理劇の創始者であるMoreno, J. L. によって提唱された重要な基本概念であり、「余剰現実」と訳されます。サープラスリアリティの体験とは、現実を超えた、想像力によって創造される体験を指します。心理劇の舞台上で、過去・現在・未来といった時間軸を超えたり、物理的な制約を超えたり、象徴的な表現を用いたりすることで、日常生活では体験できないような現実を作り出すことを意味します。

 

研究テーマはどのようにして決められましたか。

サープラスリアリティは、心理劇の主要な概念の1つですが、実際の心理劇事例を通して、特にリワークプログラムで実践された心理劇の文脈の中ではこれまであまり取り上げて語られてきませんでした。

リワークプログラムにおける心理劇の有用性を研究するにあたり、改めて心理劇の基本に立ち返って、サープラスリアリティの側面から検討する必要があると考えました。

舞台上ではあったかもしれない出来事など、さまざまな場面が展開されます

 

研究を行う上で大変だったこと,研究をして良かったと思うことを教えてください。

リワークプログラムに参加されているメンバーさん一人一人に、研究に関するインフォームド・コンセントを行い、全員から研究協力への同意をいただくことができました。

調査はビデオを用いた記録調査を行いました。心理劇は1対1の個人療法ではなく集団心理療法です。一人でも研究に同意をいただけないようであれば、調査自体が難しくなります。

リワークプログラムに参加されるメンバーさんにとって有益な心理支援となることを目指して、研究ありきの実践とならないように、研究成果を必ず現場に還元することを意識して研究に取り組みました。研究に協力してくださった当時のメンバーさんには感謝しきれません。

心理劇には果たして効果があるのか?

効果があるのだとしたらメンバーさんにとってどのように役立っているのか?

リワークプログラムにおける心理劇はどのように有用であるのか?

といったリサーチクエスチョンを通して研究に取り組みつつ、研究を通して自分の臨床実践を振り返る機会をいただけているというのは、とてもありがたいことだと感じています。

 

最後にこれから大学院を目指す方に一言お願いします。

もし目の前にタイムマシーンがあるとして、2年間大学院で学び終えた後の自分自身が大学院を目指している今の自分に会いに来てくれたとしたら、どんな姿であると思いますか?どんな生活を送ってきたのでしょうか?そして、未来の自分が今の自分に大事なメッセージをくれるとしたら、どんなメッセージだと思いますか?

そこに、あなたが聴きたい言葉があるかもしれません。

(2015年度 生活機構研究科心理学専攻[修士課程]修了生、
2024年度生活機構学専攻[博士後期課程]修了生・榎本 万里子)

心理学専攻についての詳しい情報は以下のページをご覧ください。

昭和女子大学

昭和女子大学大学院生活機構研究科心理学専攻(修士課程)は、2つの講座があります。「臨床心理学講座」は、公益財団法人日本臨…

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