「みんな」って誰?

<研究室便り>

「みんな言ってる!」
「モテる女/男は、みんな○○をしている」
「みんなが気になる△△」

みなさんも(笑)、一度は使ったことがあるのではないでしょうか。
「みんな」って誰?と考えたことはありませんか?

このようなちょっと極端な語彙、すなわち、Extreme Case Formulations(ECFs)という概念は、Anita Pomerantzという言語学者が主張した概念だそうです。例えば、all, every, absolutelyなどの表現です。
Pomerantzの論文にある次の例は、Sさんが友人について話している場面の発話で、彼にあった人は「みんな」彼のことが好きになると言っています。証明できるの?と突っ込みたくなりますが。

S : You’d like him. Everybody who meets him likes him.
(Pomerantz 1986:224)

一方、日本語の会話でも、実際の友人同士の会話をビデオ収録して、どのようにこういった表現が使用されているのか、具体的に分析した研究があります。
川上きよ美先生が、2013年のアメリカ応用言語学会で発表されたご研究です。
The use of Extreme Case Formulations for upgrades in non-argumentative Sequences.
(2013 American Association of Applied Linguistics, Dallas, TX, USA, Mar 2013)
関心を持った「みなさん」は、ぜひ、学会のHPにアクセスしてみてください。

この研究では、日本語では、みんな、いつも、全然~ない、などの表現が収集されたそうです。
(組み合わせる必要もないのですが、例えば、「あの授業、全然おもしろくないって、みんないっつも言ってる~!」なんて表現が考えられるでしょうか。教師としては、「いつも」っていつ?と聞きたくなりますが。)

私自身はこのECFsの研究をしたことがないので受け売りなのですが、Pomerantz(1986)などの先行研究では、議論するような会話の中で、相手の否定的な反応に対して自分の意見の正当性を主張する場合に用いられるとしていたそうです。これに対し、上記の川上先生のご研究では、日本語での友人同士の楽しい会話にもこれらの表現が使用されていていることを、実際の会話データで具体的に示している点におもしろさがあります。

私は、「みんな」と同じでこの表現のおもしろさに「全然気がつかない」で「いつも」使っていたので、川上先生からご研究についてお話を聞き、「みんな」とは違った視点で会話の現象のおもしろさを、会話データから具体的に指摘することができるってすごいなと率直に思いました。

4月から大学生になるみなさん、大学ではみんなといつも一緒に勉強していく時間がたくさんありますが、みんなと一緒に学び合う中からも、みんなとはちょっと違ったことに気が付ける視点も学んでもらえたらと思います。

なお、詳しくは、上記と合わせて、以下の論文も(がんばって)読んでみてもらえたらと思います。
これは、「みんな」で協力して読んでもいいかもしれませんね。
Pomerantz, A. (1986). Extreme Case formulations: A way of legitimizing claims. Human Studies 9 (2-3): 219-229.

(OB)