オール初段クラブへのお誘い―人生キャリアを豊かにするために

 30年も前から、「オール初段クラブ」という会を立ち上げて、会長を務めています。未だに、会員は会長だけの一名です。組織化する気は毛頭ないので、会員を募集しているわけではありませんし、広報活動も、これがはじめてです。クラブの趣旨だけを紹介しておきますので、もしご賛同いただけたら、クラブ支部をつくっていただき、支部長に就任してください。風聞によれば、支部長が数名いるように思われます。資格も規則も何もありません。支部長として勝手に活動していただければ、うれしい。クラブの趣旨は次のようなものです。
 遊びにしろ、勉強にしろ、やってみたいと思うことはたくさんあると思います。その一方で、自分のやりたいことを一つ見つけて、それに専念しなさいという説もあります。一つに専念して、その道のプロになるのは、とても素敵なことですが、そこまでいかずに挫折してしまう人も少なくないでしょう。そんな普通の人にお勧めのクラブです。
 まず遊びから。スポーツにしろ、芸術にしろ、楽しそうな遊びがこの世にはたくさんあります。その中で、とりあえず、二、三科目ぐらいに絞ります。あまり多すぎると手が回らなくなりますし、一つに絞ると凡人は飽きてしまいます。しかし、決めたら、それなりに熱心に取り組みます。どこまで続けるかが、このクラブの命です。目指すは、初段。やるからには、初段ぐらいまではねばる。もちろん、二段以上になってもいっこうに構いません。目標を初段にしたのは、次の三つの理由からです。第一に、経験的に言って、初段ぐらいなら誰でも努力次第で到達するということ。第二に、遊びの楽しさが最も大きいのは、初段になる頃だということ。第三に、初段になるとプロの世界のすごさがリアルに理解できること。プロのすごさを見て楽しめるのも初段の醍醐味です。
 努力次第の初段になるには、次の二つが不可欠です。「繰り返し力」と「向上心」。何事も「力」と「心」が大切。テニスでも、ゴルフでも、なんでも、まずなすべきことは、基本の繰り返しです。繰り返す粘りがないと何も身につきません。はじめは誰でもウンザリするのですが、それでも繰り返すためには、向上心が必要です。昨日より少しでも良くなっていれば、素直に喜ぶ気持ちが大事。ちょっとでも向上しようという気持ちさえあれば、繰り返せます。向上すると楽しさが確実に高まります。この力と心をもっていれば、ほとんど間違いなく、そして楽しく初段に達します。
 初段に達したら、ほどほどに楽しみながら、他の新しい科目を追加します。少しずつ初段科目を増やそうというのが「オール初段クラブ」の基本方針です。最近、私はテニスを新科目に追加しました。かなり歳をとってからのことで、なかなか上達しませんが、新科目は新科目なりに楽しい。同時に、つくづく思うのですが、スポーツや芸術は、若い時にやっておくと生涯の楽しみの財産になります。若い時にテニスをやっていた人に、歳をとってから追いつくのは、絶望的に難しいのです。
 スポーツや芸術に親しむ時間があるのは、大学時代。学生が遊び好きなのは、今も昔も変わりません。大いに遊ぶのがいいでしょう。でも、向上心を刺激しない、進歩のない快楽主義的遊びはほどほどにしておくのがいいでしょう。誰でもすぐにできるような、繰り返しの努力が必要のない遊びは、すぐに飽きます。テレビゲームのテニスでは、すぐに飽きますが、繰り返しによって向上する遊びは、生涯にわたって楽しめます。
初段の程度が分からない?というかもしれません。段位のない遊びの方が多いのですが、段位のある遊びを一つでも経験すると、だいたいの相場が分かるものです。だいたいというところはいい加減なのですが、わがクラブのルールは、その程度のいい加減さでいいのです。
 次に、勉強。遊びだけでは支部長になる資格はありません。資格がないといいましたが、これは資格以前の資格です。遊びだけでは人生がつまらないからです。勉強は、知的な遊びです。身体的な遊びには、体力が大きく影響するのですが、知的遊びに関係する「脳」力は無限です。刺激すればするほど脳は活性化します。
 勉強も、遊びと同じように、まず二、三科目の初段を目指します。社会学でも、経済学でも、心理学でも、統計学でも、英語でも、歴史でも、文学でも、楽しそうな科目を決めましょう。決めたら、「繰り返し力」と「向上心」を忘れないように。遊びと同じです。分からなくても、繰り返していれば、だんだん分かるようになります。繰り返せば、向上します。だから楽しくなるのです。楽(ラク)して楽しめる勉強はありません。楽勝の単位科目は、何の役にも立ちません。
勉強に初段ってあるの?ごもっともな質問ですが、わがクラブのいいかげんさから言えば、あります。「高校の教科書+大学の教養」が初段クラスだと考えて下さい。したがって、自分の選択した科目に関係する高校の教科書は、繰り返しながら、読みなおします。試験のための勉強ではなく、知的な遊びだと思って高校の教科書や参考書を読むと結構楽しいことが分かります(私は高校の教科書を全科目手元に置いています)。その上で、選択した科目に関連した大学生用の本を乱読気味でもいいから読みます。そうすると、自分の肌に合う専門書に出会うことができます。その本を楽しく繰り返し読めるようになれば、立派な初段です。
 会長一人の秘め事を公開したのは、二つのきっかけがあります。一つは、「現代教養」の理念と無関係ではないと思ったからです。いま一つは、はやりのキャリア教育。人生キャリアの8割は偶然です。偶然のキャリアを生きるために必要な力は、日常的な「学び習慣」です。わがクラブの活動は、学び習慣を身につけることにもなります。
まず一つでも初段になれば、オール初段クラブの趣旨が分かっていただけるでしょう。大学時代に、二、三科目の遊びと二、三科目の勉強を楽しむのがいいのではないかと思います。卒業後には新科目を追加して楽しんでください。正しい方法やルールがあるわけではありません。面白いかもしれないと思ったら支部長に就任して活動してください。そんな優雅な時間を持てるのが、学生の特権です。そして、その体験が社会に出てからの遊びと勉強と仕事に大いに役立ちます。

(記事:M.Y.)