芥川龍之介の「河童図屏風」に思う

〈日文便り〉

長崎で学会に参加しました。
私が所属している遠藤周作学会と、国際芥川龍之介学会、長崎市立図書館が共催で、
両作家ゆかりの地 長崎で、学会を開催したのです。
共催ならではの多彩な視点に驚き、豊穣な時を過ごしました。

その帰京の日に長崎歴史文化博物館に立ち寄り、
芥川龍之介自筆の「河童屏風図」を見てきました。
例年は7月のみの公開ですが、今年は特別に8月も公開してくださったのです。
屏風の由来は次の通り。

「芥川の河童図公開 長崎歴史文化博物館」2019/7/24付 「西日本新聞 」社会面より
24日は作家芥川龍之介(1892~1927)の命日で、
河童(かっぱ)の絵を好んで描いたことから「河童忌」と呼ばれる。
文豪をしのび、ちょうど100年前に芥川が訪れた長崎市の長崎歴史文化博物館で、
自作の「河童図屏風(びょうぶ)」が公開されている。9月16日まで。
芥川は1919(大正8)年、菊池寛とともに初めて長崎を訪れた。
異国情緒あふれる町は芥川の創作に影響を与えたとされる。
河童図屏風は22年の再訪時に、雌の河童が振り返る様子を銀屏風に墨で描き、
なじみの名妓・照菊(杉本わか)に贈ったもの。
わかが後に開業した料亭「菊本」の名物となり、現在は収蔵する同館が
河童忌の前後に限って展示する。

この河童の迫力!うっすらと真ん中に撮影者が写っているので、
その大きさが分かると思いますが、小学生3、4年生と同じくらいの背丈があります。
迷いのない筆さばきで描かれていて、今にも屏風から飛び出してきそうです。
芥川龍之介の多才な一面を、静かにしかし強烈に見せつけられた思いでした。
その後、他の作家の芳名帳なども見て帰途につきました。

帰りの飛行機の中でふと思いました。
筆文字、毛筆画っていいなあ。肉筆は、その人を語りかけてくるなあ。
作家の自筆原稿を見る楽しみも、ここにあるものなあ。
……ちょっと待てよ。今の作家は多くがパソコンを使って書いているらしい。
とすると、肉筆を見るのは、サイン会の時くらい?
50年後の展覧会は「作家〇〇の愛用したパソコン」や、
プリントアウト原稿が展示されるということ?えええ?!
現代の作家たちにも多才を発揮して、いろいろな物を残してほしいものです。

(FE)