『夏目漱石 修善寺の大患前後』の刊行

このたび、わたしたち5人(笛木美佳、福田委千代、福田淳子、山田夏樹、吉田昌志)の共同研究のプロジェクトが、一冊の本になりましたので、ご紹介します。
タイトルは『夏目漱石 修善寺の大患前後』、副題に「昭和女子大学図書館近代文庫蔵の新資料を加えて」と付いている、全389頁の本です。

皆さんもよくご存じ、近代作家のなかで最も著名な夏目漱石は、いまから106年前の大正5年(1916)12月に、50歳でその生涯を閉じましたが、この50年の生涯のうちで、もっとも深刻だったのは、明治43年(1910)の「修善寺の大患」でした。
「深刻」というのは、胃潰瘍の療養のため滞在していた伊豆修善寺温泉の菊屋旅館で、8月24日の晩に大吐血し、30分間の意識不明ののち、一命を取りとめて、蘇生したからです。
この「修善寺の大患」の時の滞在治療に要した費用に関する資料が、本学図書館の近代文庫所蔵の貴重資料のなかにあることが判ったところから、プロジェクトが始まりました。
図書館近代文庫の収蔵品の中では「夏目漱石・芥川龍之介・久米正雄往復書簡」(折帖二冊、が、漱石関係の重要資料として内外に良く知られています。
この書簡は、漱石の亡くなる年、大正5年(1916)の8月から9月にかけて、上総一宮に滞在していた帝国大学卒業直後の芥川龍之介と久米正雄とのやりとりですが、この折帖の「裏面」に、修善寺大患の滞在療治の費用に関する資料三種(旅館・医院の領収書と費用計算書)が貼付されていたのです。
漱石の研究は日本近代文学において最も盛んに行われていますが、これまで修善寺大患の費用についての情報は多くありませんでした。
そこで、この貴重な資料の公開を中心に、漱石が修善寺大患の前後、いつ、どこで、なにをしていたのか、その全容を捉えようと、プロジェクトが企画され、4年にわたり共同研究を続けて、ようやく公刊に至ったわけです。
わたしたちは、漱石研究に、一石を投じるものと信じています。
資料の所蔵元である図書館では、本書の刊行を記念し、5月18日から、「修善寺の大患」を立体的に再現する特別展を開催します。
この本とともに、ぜひご覧ください。

(吉田昌志)