美術に出遭う日-ふたつの展覧会-

〈日文便り〉今年のゴールデンウイークは、久しぶりに美術展へ出かけたので、
その報告。
まず最初は、竹橋の国立近代美術館の「重要文化財の秘密」展。
整理券をもらって30分待ちだったが、その名にたがわず、銘品揃いで圧巻だった。
横山大観の「瀟湘八景」の長軸には、長蛇の列ができていて、
時間がかかると思い、これは2018年の大観展で見ているから、
軽く流して彫刻の部へ。
荻原守衛の「女」は、残念ながら出品されていなかったが、
新海竹太郎の「ゆあみ」を、側面、背面から視られたのが収穫だった。
横から見ると、意外に厚みが無かった。
この彫刻は、正面から見られるように造られていたのだった。
日本画では、土田麦僊の「湯女」の豊麗な曲線に圧倒された。
帰りに、ショップで「湯女」のフレーム入りの複製を買ってしまった。

続いて、上野の東京藝術大学美術館の「買上展」へ。
明治26年(1893)以降、卒業制作のうち藝大(旧東京美術学校)が買い上げた
一万件の中から、百点余を厳選した展示。
私の研究している泉鏡花と縁の深い日本画家・小村雪岱の「春昼」に
久しぶりで巡り会えたのが幸いだった。
鏡花の小説「春昼」(明治39年発表)にちなんで、菜の花の咲く小祠の
周りを白と黄の蝶の舞う図は、「代赭(たいしゃ)」の地の色が
何度見ても美しい。
ここでも、高村光太郎の彫刻「獅子吼」(明治35年)のブロンズが
若々しいエネルギーを放出していた。
当然ながら、卒業制作には、作者の原点があるし、青春のかがやき
が充満している。
絵画よりも、彫刻に魅せられた二つの美術展だった。
図録を見返しながら、いまだにその余韻を愉しんでいる。

授業の時にも、よく言うのだが、国立美術館のキャンパスメンバーズ
である日文のみなさんは、常設展は無料、特別展も割引、で観ることができる。
在学中しか使えないこの特権を、ぜひとも利用していただきたい。

(吉田昌志)