2022年度 特殊研究講座:「発達障害の脳科学」(国立障害者リハビリテーションセンター研究所・井手正和先生)

昭和女子大学では最先端の研究を実践している学外の先生を招いた「特殊研究講座」を各学科ごとに開催しています。

心理学科では今年度10/15(土)に国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員の井手 正和先生をお招きし,「発達障害の脳科学」をテーマにご講演いただきました。

グリーンホールにて3年ぶりの対面開催となりました。

 

講師:井手 正和先生について

井手先生は実験心理学(experimental psychology)認知神経科学(cognitive neuroscience)がご専門で,発達障害における

  • 感覚過敏および感覚鈍麻といった感覚処理障害(Sensory Processing Disorder)
  • 発達性協調運動症(Developmental coordination disorder:DCD)

の研究をされておられます。

発達障害というと,対人コミュニケーションの問題や不注意の問題ばかりがクローズアップされがちですが,自閉スペクトラム症(ASD)を抱える人の中には,例えばトイレにあるハンドドライヤーなど特定の音などが苦手な聴覚過敏がある人もいます。

また,ボタンと留めたり字を書くといった微細運動や,机に座り姿勢を保ったりダンスや球技をする際に必要な動作である粗大運動を苦手とする人もいます。

井手先生たちの研究グループでは,このような発達障害の方々が抱える症状や困りごとのメカニズムを🧠に関する研究を通じて解明しようとされています。

井手先生の研究室HP
https://m-ide.jp/

井手先生のTwitter
https://twitter.com/IDEmRes?s=20

「発達障害の脳科学」

当日のご講演ではご自身の研究も含め,

  • 感覚処理の問題にはGABA(Gamma Amino Butyric Acid:γアミノ酪酸)の濃度低下が関係している
  • 運動の問題にもGABA(Gamma Amino Butyric Acid:γアミノ酪酸)の濃度低下が関係している
  • 不安が高いほど,2つの異なる刺激のうちどちらが早く生じたかをより短い時間間隔で見分けられる(時間分解能が高い

などに関して,学部生にも分かりやすく解説いただきました。

脳に関する話を大変分かりやすく解説いただきました💡

 

また,「脳の機能の違いだけでは,発達障害を抱えている人の困りごとをすべて説明することはできない。社会の中にどんな障壁があるかを考え,多様な特徴をもった人が生きやすい社会を考えていくことが重要」というメッセージもいただきました。

学生の感想

普段聞き慣れない用語もあったにも関わらず,参加した学生の感想からは,

ASDの人の特徴がどのように生じるのか、そのメカニズムをちゃんと学ぶことで、「発達障害」に対する悪いイメージは無くなると感じました。また、定型発達の人がバランス型だとするとASDの人は特化型というようなイメージが生まれました。定型発達の人に向いていること、ASDの人に向いていることがあって、優劣ではなくある種の個性の話であると思いました。新たな知識を得たことはもちろん、発達障害に関する印象が変わったという点においても、今回の講義は非常に有意義でした(1年生)
感覚過敏を持つ友だちいるので少し知っているつもりになっていましたが、私が知っていることはほんの一部なのだと改めて気づきました。ASDにおいて時間分解能が高いほど感覚過敏が高まるのではないかという話を聞いて、一瞬一瞬に取り込まれる情報が多いことから苦しく、感じるのではないかと想像しました。心理学を活かした支援につなげていくためにも、もっとASDや感覚過敏について知識を蓄えていきたいと思いました。(2年生)
普段なかなか学べない内容だったので、知見が深まりました。自分が当たり前だと思っているデザインは誰かにとって不便なものになりうることを実感しました。皆にとって優しいデザインや、社会を考えていきたいと思いました。普段目に見えてないからこそ、私たちの頭の中でこんなやり取りが繰り広げられているのかと考るとニューロンのやり取りは何度見ても、不思議だなあと思います。(3年生)
発達障害の特性や必要な支援については授業で学ぶ機会がありましたが、脳機能からメカニズムを学んだことはなかったためとても面白かったです。特に印象的だったのが「ASD者の脳機能は定型発達者との差だけでなくASD内での個人差も大きいことが特徴」という部分です。発達障害をグラデーションのように捉えることは知っていましたが、脳機能にまで個人差があることは知りませんでした。このような科学的知見は、発達障害を持つ人々に関わったり支援したりする際、障害をひとまとめに捉えるのではなく個人個人にしっかりと目を向けるためにも必要なことだと感じました。(3年生)

と,最先端の研究に触れることで多様性についての考えを一層深められたようでした。

特殊研究講座を通して,今後も最先端の研究に触れ学びを深められる機会を提供していきます。

井手正和先生のご著書

今回の講演内容に興味を持たれた方は,当日もご紹介いただきました講師の井手正和先生による以下の書籍をぜひお読みください。

『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(SBクリエイティブ)

『科学から理解する 自閉スペクトラム症の感覚世界』(金子書房)

(心理学科・岩山)


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